1.「相場」から決めると、社内で通らない
専門卒の採用を検討するとき、最初に出てくるのが「いくらに設定するか」です。ここで外部の相場を調べて当てはめようとすると、たいてい止まります。社内の給与基準との整合が取れないからです。
決め方の順番は、外からではなく内からです。この記事では、社内で確認する順に整理します。
なお、この記事では具体的な金額の目安は示しません。職種、地域、企業規模、業界によって差が大きく、出典のない数字を置くと判断を誤らせるためです。相場を参照される場合は、年度・対象・出典が明記された統計をお使いください。
2.社内で確認する順番
次の順に埋めていくと、根拠のある金額になります。
| 順番 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 現在の大卒初任給と、その根拠。いつ、何を見て決めたか |
| 2 | 自社に専門卒・高卒の在籍者がいるか。いるなら、入社時の金額と現在の金額 |
| 3 | その職種の賃金テーブル。等級の入口はどこか。学歴で分けているか |
| 4 | 昇給の設計。1年目から3年目でどう上がるか |
| 5 | 手当の扱い。住宅、通勤、資格、地域。固定残業代を含むか |
| 6 | 同じ等級の既存社員との差。新卒が上回らないか |
いちばん詰まりやすいのは6つめです。初任給を上げた結果、数年勤めた社員と逆転する。これが起きると、採用はできても定着で失います。初任給だけを動かさず、2〜3年目までをセットで見てください。
3.大卒と分けるか、揃えるか
専門卒の初任給を、大卒と分けるか揃えるか。正解はありませんが、判断の軸は整理できます。
| 考え方 | 気をつけること | |
|---|---|---|
| 学歴で 分ける | 既存の賃金テーブルに素直に乗る。社内の説明がしやすい | 入社時点の技能が同等以上でも金額が下がる場合、本人の納得が得にくい |
| 職種で 揃える | 同じ仕事なら同じ入口にする。技能を評価する姿勢が伝わる | 既存の賃金テーブルの見直しが必要になることがある |
専門学校で学んできた学生は、入社時点で仕事の土台になる知識と、手を動かした経験を持っています。その職種に直結する学科であれば、「学歴」ではなく「入社時にできること」で入口を決めるほうが、説明もしやすくなります。
この線引きの考え方は、「大卒以上」を外すとき、社内をどう通すかで詳しく扱っています。
4.学生は、金額だけを見ていません
面談で学生の話を聞いていると、比較しているのは金額そのものだけではありません。次の点も見ています。
- 手取りがいくらになるか——総支給と手取りの違いを、学生は把握しきれていないことがあります
- 固定残業代が含まれているか——含まれる場合、何時間分かが書かれているか
- 住宅手当や寮の有無——実家を出る学生にとっては、基本給より効くことがあります
- 1年目から3年目でどう上がるか——入口の金額より、この情報がある求人のほうが安心されます
- 資格取得の支援——資格が必要な職種では、支援制度の有無が判断材料になります
金額で競り合わずに差をつける方法は、ここにあります。基本給を上げるのが難しくても、昇給の設計や手当の内訳を具体的に書くことはできます。「◯年目で◯◯円程度」と書いてある求人は、そう多くありません。
5.求人票での書き方
見直し前
【給与】月給 ◯◯円〜(経験・能力を考慮のうえ決定)
【諸手当】各種手当あり
【昇給】年1回
「〜」と「各種」で、実際にいくら受け取れるのかが分かりません。新卒には「経験・能力を考慮」も判断できません。
見直し後
【給与】月給 ◯◯円(専門卒・◯◯職)
内訳:基本給 ◯◯円+固定残業代 ◯◯円(◯時間分。超過分は別途支給)
【手当】
通勤手当(上限 ◯◯円)/住宅手当(条件:◯◯、月 ◯◯円)/資格手当(◯◯ 取得で月 ◯◯円)
【昇給の目安】
年1回。入社3年目で月給 ◯◯円程度が標準です(◯年度実績)。
【賞与】年2回(◯年度実績 ◯か月分)
変えたのは3点です。
- 内訳を出した——固定残業代が含まれるなら、時間数まで書きます
- 手当を具体化した——「各種手当」では判断できません
- 数年後の目安を書いた——実績値であれば、年度を添えて書けます
6.決めたあとに揃えること
- 学校へ伝える——求人票の金額は、就職担当の先生が学生に説明する材料になります
- 面接で同じことを言えるようにする——求人票と面接で説明が食い違うと、辞退の原因になります
- 既存社員への説明を用意する——初任給を動かした場合、在籍者から質問が出ます
なお、専門学校生は在学期間が短く、授業や実習との両立も必要なため、就職活動に使える時間は限られます。この事情は企業向けサービスのページでご説明しています。
7.最初の一歩
- 第2章の6項目を、社内の資料を見ながら埋める
- 2〜3年目までの金額を並べ、既存社員と逆転しないか確認する(第2章)
- 学歴で分けるか、職種で揃えるかを決める(第3章)
- 内訳・手当・数年後の目安を求人票に書く(第5章)
評価するときは、応募数だけでなく、内定辞退の理由に金額が挙がったかどうかを見てください。挙がらないのであれば、金額以外の要因です。