1.「不規則です」では、伝えたことになりません
映像・放送の現場は、撮影、照明、音響、編集、制作進行と役割が細かく分かれ、案件ごとに動き方が変わります。求人票に「不規則な勤務です」「体力が必要です」と書いてある募集は多くありますが、この書き方には2つの問題があります。
- 学生が具体的に想像できない——何時から何時なのか、月に何回そうなるのかが分かりません
- 伝えた側も、伝えた気になってしまう——入社後に「聞いていない」と言われる原因になります
入社前の情報提供は、辞退を減らすためではなく、入社後に辞めないためのものです。手前で丁寧に伝えるほど、応募は減るかもしれません。それでも、入ってから辞められるよりは損失が小さい、という前提で組み立ててください。
この記事は企業が学生へ伝える方法を扱います。学生の力を見極める方法は、デザイン職の新卒採用で、ポートフォリオのどこを見るかでご説明しています。
2.学生は、どこまで知っているか
映像分野の専門学校には、カメラ、照明、音響卓、編集システムなどを備えた実習環境を持つ学校があります。授業のなかで実際に機材を操作してきた学生がいます。
また、作品制作は分業です。撮影、音声、照明、編集と担当を持ち寄って一本にまとめる授業があり、現場の進め方に近い経験を積んでいます。学内制作やイベント運営で、仕込みから片付けまでを通して担当する機会がある学校もあります。
つまり、拘束時間の長さや段取りの重みを、ある程度知っている学生もいます。
ただし、学校の実習と、仕事としての現場は違います。次の点は、学校では経験しにくいところです。
- 連日続くこと——実習は単発ですが、仕事は次の案件が続きます
- 休みが読めないこと——学校には時間割がありますが、案件には無いこともあります
- 自分で選べないこと——実習は役割を決められますが、仕事では割り振られます
伝えるべきは、ここです。機材の話ではなく、生活の話だと考えてください。
3.入社前に伝えておく項目の一覧
そのまま使える形でまとめました。書ける範囲で構いません。分からない項目は「案件による」と正直に書くほうが、曖昧にぼかすより信用されます。
| 項目 | 伝える内容の例 |
|---|---|
| 勤務時間 | 案件がない日の始業・終業。ある日の典型的な時間帯。月にどのくらいの割合か |
| 休日 | 年間休日数。土日が休みになる月はあるか。代休の取り方と、実際の取得状況 |
| 繁忙期 | 年のどの時期が忙しいか。その時期の勤務の実際 |
| 移動と宿泊 | ロケの頻度、日帰りか泊まりか、宿泊時の手当 |
| 深夜・早朝 | 発生する頻度。深夜手当の扱い。帰宅手段(タクシーの扱いを含む) |
| 1年目の役割 | 最初の◯か月は何を担当するか。機材に触れるのはいつからか |
| 教える体制 | 誰がついてくれるのか。何か月くらいか |
| 体力面 | 機材の運搬がどの程度あるか。立ち仕事の時間 |
| 数年後の姿 | 何年目にどんな役割になるのが標準か |
| 相談先 | 困ったときに誰に言えばよいか |
とくに「1年目の役割」と「機材に触れるのはいつからか」は、学生が最も気にする点のひとつです。機材を学んで入ってきた学生が、1年目はほとんど運搬と雑務だった、という食い違いは起きやすいところです。事実がそうであれば、そのまま伝えてください。
4.求人票での書き方
見直し前
【職種】AD・制作進行
【仕事内容】番組制作の進行業務全般
【勤務時間】変形労働時間制(案件により変動)
【休日】週休2日(シフト制)
【備考】不規則な勤務となります。体力に自信のある方歓迎。
見直し後
【職種】AD・制作進行(◯◯番組、Web動画が中心)
【1週間の動き方の例】
撮影のない週:10:00〜19:00 の勤務が中心。資料作成、ロケハン、各所への連絡。
撮影のある週:集合が早朝になる日があり、終了が深夜になる日もあります。月に◯日程度です。
【休日】
年間休日 ◯日。撮影が入ると土日の勤務が発生します。代休は ◯ か月以内に取得する運用で、直近1年の取得率は ◯% です。
【1年目に担当すること】
最初の◯か月は、先輩の担当する案件に同行します。資料作成、機材の運搬と設営、各所への連絡が中心です。◯か月目以降、小さな案件の進行を担当していただきます。
【正直にお伝えしておくこと】
繁忙期(◯月〜◯月)は、勤務が不規則になります。深夜に及ぶ日は帰宅手段を会社が手配します。1年目は機材に触れる時間より、段取りを覚える時間のほうが長くなります。
【選考で伺うこと】
学内制作で担当したポジションと、チームの人数、自分の持ち場をお聞かせください。
変えたのは3点です。
- 数字で書いた——「不規則」ではなく「月に◯日程度」「取得率◯%」
- 1年目の実際を書いた——機材に触れる時間より段取りを覚える時間が長い、という事実を先に出しました
- 「正直にお伝えしておくこと」という欄を作った——ここがあると、読み手は企業の姿勢を信用します
5.いつ、誰が伝えるか
同じ内容でも、伝える順番で受け取られ方が変わります。
| 求人票 | 勤務時間、休日、1年目の役割、正直にお伝えしておくこと |
|---|---|
| 面接 | 繁忙期の実際、移動と宿泊、体力面。学生からの質問に答える時間を確保する |
| 内定後 | 現場の見学、若手社員との面談。書面ではなく人から聞く機会をつくる |
いちばん効くのは、入社1〜3年目の社員が話すことだと考えています。採用担当が「大変だけどやりがいがある」と言うより、学生に年齢が近い社員が「この時期はこうです」と具体的に話すほうが、伝わり方が違います。
内定後に辞退が出た場合の対応は、内定辞退が出たあと、企業ができることでご説明しています。
6.学校に確認できること
- 学内制作やイベント運営の実施状況——仕込みから撤収まで経験しているか
- 実習環境——どんな機材があるか。触れられる時間はどのくらいか
- 作品制作の分業の仕方——役割を固定しているか、持ち回りか
- 制作の繁忙期——選考と重ならない時期を確認できます
なお、専門学校生は在学期間が短く、授業や実習との両立も必要なため、就職活動に使える時間は限られます。この事情は企業向けサービスのページでご説明しています。
7.最初の一歩
- 第3章の10項目を、自社の言葉で埋める(分からない項目は「案件による」でも構いません)
- 数字にできるものを数字にする——月◯日、年間休日◯日、代休取得率◯%
- 求人票に「正直にお伝えしておくこと」の欄を作る(第4章)
- 内定後に、入社1〜3年目の社員と話す機会を組む(第5章)
評価するときは、内定辞退の数だけでなく、入社1年目の在籍がどうなったかを見てください。入社前の情報提供は、そこに効いてきます。