1.「未経験」という言葉が指しているもの
エンジニアの新卒求人で「未経験可」と書くとき、多くの場合その意味は「実務の経験がなくても構わない」です。企業としては、門戸を広げるつもりで書いています。
ただ、この一語だけでは、次のことが伝わりません。
- どの程度の基礎を求めているのか——何も知らない状態でよいのか、言語に触れた経験は欲しいのか
- 入社後に何を教えてもらえるのか——研修があるのか、現場で覚えるのか
- 学校で学んだことが活きるのか——それとも、ゼロから教え直されるのか
IT分野の専門学校で学んできた学生は、実務の経験はありませんが、学習の経験はあります。授業でコードを書き、演習や制作に時間を割いてきた学生がいます。この2つを同じ「未経験」でまとめてしまうと、学生も、学校の就職担当の先生も、自分に合う求人かどうかを判断しにくくなります。
母集団そのものが足りていない場合は、求人媒体を増やしても、新卒の応募が集まらないときもあわせてご覧ください。
2.実務経験と学習経験を、分けて書く
求人票では、次の3つを別々に書きます。
| 実務経験 | 不問であることを明記する。インターンやアルバイトでの開発経験は問わない、など |
|---|---|
| 学習経験 | 授業・演習・自主制作で何に触れていてほしいか。言語、環境、作ったものの種類 |
| 入社後に教えること | 自社の開発手順、使用するフレームワーク、レビューの受け方、業務知識 |
この3つを分けて書くと、「実務は未経験でよいが、学習の経験は見ている」という姿勢が伝わります。学校の先生も、どの学科の学生に案内すればよいか判断できます。
3.求人票の書き換え例
見直し前
【職種】システムエンジニア
【仕事内容】システムの設計・開発・運用
【応募資格】学歴不問/未経験可/研修制度あり
【歓迎】プログラミングに興味のある方
「未経験可」と「興味のある方」だけでは、授業でコードを書いてきた学生が、自分向けの求人だと判断する材料がありません。どの程度を求められているのかが分からないためです。
見直し後
【職種】システムエンジニア(業務系Webアプリケーションの開発)
【実務経験】
不問です。インターンやアルバイトでの開発経験は求めていません。
【学習経験(こういう方に向いています)】
授業や自主制作で、何らかの言語でプログラムを書いた経験がある方。弊社では主に ◯◯ / ◯◯ を使いますが、同じ言語である必要はありません。基本情報技術者試験の学習をされた方も歓迎します。データベースに触れた経験があれば、なお進めやすくなります。
【入社後1年目に担当すること】
最初の◯か月は、先輩の担当する機能の改修から始めます。設計書を読み、実装し、レビューを受ける流れを覚えていただきます。◯か月目以降は、小さな機能の設計から任せていきます。
【入社後に教えること】
弊社の開発手順、使用しているフレームワークとツール、レビューの進め方、業務知識。◯◯資格の取得は◯年目から支援制度の対象です。
【選考で伺うこと】
在学中に作ったものを1つ伺います。動くものでなくても構いません。何を作ろうとして、どこで詰まって、どう解決したかをお聞かせください。
変えたのは4点です。
- 実務経験と学習経験を分けた——「未経験可」が何を指すのかを明確にしました
- 言語が違っても構わないと書いた——学校で扱う言語は学科によって異なります。同じでなくてよいなら、そう書いてください
- 1年目に担当することを書いた——「設計・開発・運用」では、入社後の姿が想像できません
- 選考で伺うことを書いた——「動くものでなくても構いません」と書けるなら、書いてください。制作物が仕上がっていない学生も応募を検討できます
4.求める知識を、どの粒度で書くか
学習経験を書くときに迷うのが、粒度です。細かすぎると該当者がいなくなり、粗すぎると伝わりません。目安としては、次の3段階で考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 書き方の例 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 広い | 何らかの言語でプログラムを書いた経験 | 育成の体制があり、間口を広げたいとき |
| 中くらい | オブジェクト指向の言語に触れた経験/データベースを扱った経験 | 基礎は求めるが、言語は問わないとき |
| 狭い | 特定の言語・フレームワークでの制作経験 | 入社後すぐに戦力として動いてほしいとき |
新卒採用では、「中くらい」から始めて、応募の状況を見て調整するのが現実的です。いきなり「狭い」で出すと、該当する学生が限られます。学校・学科によって扱う言語は異なるため、言語を限定すると、その言語を扱っていない学科の学生には案内されません。
5.制作物の出し方を決めておく
IT分野では、演習や制作に時間を割くカリキュラムが中心です。卒業制作でチーム開発を経験する学校もあり、作った成果物を持っている学生がいます。
制作物を見るのであれば、求人票にこう書いておくと、学生が準備できます。
- 何を見るか——ソースコードか、動くものか、画面の説明でよいのか
- 形式——リポジトリのURL、資料、その場での説明のどれでもよいのか
- 完成度の扱い——「動かない状態でも構いません」と書けるなら、書いてください
- チーム制作の扱い——担当範囲を伺う旨を書いておくと、学生も説明を準備できます
面接では、「何を作ろうとしたか」「どこで詰まったか」「どう解決したか」を聞くと、実装の量だけでは見えないところが分かります。作品そのものの評価の仕方は、デザイン職の新卒採用で、ポートフォリオのどこを見るかの質問例も参考になります。
6.学科に何を確認すればよいか
IT分野の学科は、扱う範囲が学校・学科によって異なります。求人を出す前に、次を確認しておくと、書き方が決まります。
- 主に扱っている言語——自社と同じとは限りません。違っても問題ないなら、その旨を書けます
- 開発かインフラか——プログラミング中心の学科と、ネットワーク・インフラ中心の学科があります
- チーム開発の経験があるか——卒業制作などで、何人でどう進めたか
- 資格の取得を目指す科目構成か——入社後の資格支援の設計に関わります
- 制作物を持っているか——選考で何を見せてもらえるかの目安になります
なお、専門学校生は在学期間が短く、授業や実習との両立も必要なため、就職活動に使える時間は限られます。この事情は企業向けサービスのページでご説明しています。
7.最初の一歩
- 「未経験可」が何を指しているのかを、社内で言語化する(第1章)
- 実務経験・学習経験・入社後に教えることの3つに分けて書き出す(第2章)
- 学習経験の粒度を「中くらい」で設定する(第4章)
- 制作物の見方と、完成度の扱いを決めて求人票に書く(第5章)
- 学校に、扱っている言語と学科の性格を確認する(第6章)
評価するときは、応募数だけでなく、在学中にコードを書いてきた学生と実際に会えたかを見てください。会えていないのであれば、書き方か、接点のどちらかに原因があります。