1.辞める理由は、たいてい同じところにある
新卒が1年目で辞めるとき、本人は「合わなかった」と言います。会社側も「仕事が向いていなかったのだろう」と受け取ります。
しかし、もう少し踏み込んで聞くと、出てくる話はもっと具体的です。
- 誰に聞けばいいのか分からず、分からないまま時間が過ぎた
- 自分ができているのかどうか、誰からも言われなかった
- 忙しそうで、声をかけられなかった
- 何のためにやっている作業なのか、分からなかった
どれも、仕事の難しさの話ではありません。受け入れ側が決めておけば起きなかったことです。
そして、専門学校を出た人は手を動かす訓練を受けてきています。作業そのものでつまずくことは、実はそれほど多くありません。つまずくのは、その手前です。
この記事でご説明するのは、受け入れ側の段取りです。会社の規模や業種によって事情は異なります。全部をやる必要はありません。できるところから置き換えてお読みください。
2.決めるのは、3つだけ
制度を作る必要はありません。次の3つを決めれば、大半は防げます。
| 決めること | 決まっていないと、どうなるか |
|---|---|
| 指導役は誰か 日々教える人を、名前で1人 |
全員が「誰かが見ているだろう」と思い、結果として誰も見ていない |
| いつ振り返るか 面談の時期を、あらかじめ決めておく |
できているかどうかが本人に伝わらない。不安なまま時間が過ぎる |
| 困ったとき、誰に言えばいいか 指導役とは別に、もう1人 |
指導役と合わなかったときに、逃げ場がなくなる |
3番目を軽く見ないでください。指導役との相性は、やってみないと分かりません。合わなかったときに言える先がないと、本人は黙って辞めるほうを選びます。
月に一度、15分でも構いません。経営者でも、他部署の先輩でもかまいません。「仕事の話でなくてもいい時間」として置いておくのが要点です。
採用を始める前の決め方は、新卒を初めて採る会社が、先に決めておくことでご説明しています。この記事は、その続きにあたります。
3.入社前 内定から入社日まで
専門学校生の場合、内定から入社まで数か月あくことがあります。この期間に会社から何の連絡もないと、不安が育ちます。
やることは2つです。
- 月に1回、短い連絡を入れる 内容は何でも構いません。社内の様子、現場の写真、入社日の案内。忘れられていないと分かることが目的です
- 入社1〜2週間前に、一度会う 難しければ電話でも構いません。配属先、指導役の名前、初日の集合時間と持ち物を伝えます
2番目で、指導役の名前を先に伝えておくのが効きます。初日に「知っている名前の人がいる」だけで、立ち上がりが違います。可能であれば、その場で少し話してもらってください。
入社前に何を伝えるかという話は、映像・放送の新卒採用で、入社前に何を伝えておくか、観光・ホテル・ブライダルの新卒採用で、配属と勤務形態をどう伝えるかでも分野ごとに扱っています。
4.入社直後 初日から1か月
この時期にいちばん避けたいのは、空白の時間です。やることがない時間が続くと、自分がここにいる意味を疑いはじめます。
初日については、時間単位で決めておいてください。
| 場面 | 決めておくこと |
|---|---|
| 朝 | 誰が迎えるか。席はどこか。道具は揃っているか |
| 午前 | 誰が、何を説明するか |
| 昼 | 誰と食べるか。1人にしない |
| 午後 | 社内を回って、顔と名前を合わせる |
| 終わり | 指導役が5分だけ話す。明日やることを伝えて帰す |
最後の5分を、1か月続けてください。その日の終わりに、明日やることが分かっている状態にする。これだけで、朝の不安がなくなります。
最初に任せる仕事は、手順が決まっていて、間違えても直せるものから始めます。そして、その作業が何のためのものかを、必ず添えてください。
この書類は、来週の現場で職人さんが見るものです。日付が違うと別の資材が届いてしまうので、そこだけ気をつけてください。
意味が分かっている作業と、言われたからやる作業では、1か月後の身につき方が変わります。
5.3か月後 いちばん危ないところ
経験上、最初の山は3か月前後に来ることが多いように思います。理由はいくつか重なります。
- 最初の緊張がとけ、まわりが見えるようになる
- できないことが、自分ではっきり分かってくる
- 学校の友人と会い、他社の話を聞く時期と重なる
- まわりが「もう慣れただろう」と気を配らなくなる
ここで1回目の面談を、あらかじめ日程に入れておいてください。問題が起きてから呼ぶのではなく、最初から決めておくのが要点です。呼ばれた側が身構えません。
聞くことは、3つで足ります。
| 聞くこと | ねらい | |
|---|---|---|
| ① | この3か月で、できるようになったと思うことはありますか | 本人に言わせる。自覚がないことが多い |
| ② | 分からないまま、そのままになっていることはありますか | 聞けずに溜めているものを出す |
| ③ | 困ったとき、誰に聞いていますか | 指導役が機能しているかが分かる |
③で指導役以外の名前が出たら、そちらが実質の相談相手になっています。悪いことではありません。実態に合わせて体制を調整してください。
そして、面談ではできていることを先に言ってください。この時期の本人は、できないことばかり数えています。外から見えている成長を言葉にするのが、いちばん効きます。
6.半年後 任せ方を変える
半年を過ぎたら、見ているだけの時間を減らしていきます。いつまでも補助のままだと、今度は「自分は必要とされていないのではないか」と感じはじめます。
変えるのは、次の3点です。
- 担当を持たせる 小さくてかまいません。「これはあなたの担当」と言えるものを1つ
- 確認の回数を減らす 毎回見るのをやめ、節目だけにする
- 次の1年の見通しを伝える 1年目の終わりに何ができていてほしいか
3番目が抜けやすいところです。この先どうなるのかが見えないと、続ける理由が弱くなります。金額を約束できなくても、任せる範囲の見通しは言えます。
なお、学んだ分野と違う仕事に就いた人の場合は、学校で身につけたことが使えている場面を、意識して言葉にしてください。この点は専攻と違う仕事を希望する学生を、どう見るかでも触れています。
7.辞めそうな兆しに、どう気づくか
辞める相談は、たいてい決めたあとに来ます。その前に見えるものがあります。
- 質問が減る 分かったからではなく、聞くのをあきらめていることがあります
- 雑談に入らなくなる
- 遅刻や当日の休みが増える
- 「大丈夫です」としか言わなくなる
こうした変化に気づいたら、指導役ではない人から声をかけてください。2章で決めた「もう1人」の出番です。
声のかけ方は、仕事の話から入らないほうが届きます。
最近どう。慣れた? 困ってることあったら、言いにくければ私からでも伝えられるよ。
そのうえで、本当に辞める意思が固い場合は、引き止めることより、理由を聞くことを優先してください。次に迎える人のために残ります。
学校を通して採用した場合は、学校にも状況を伝えてください。隠すと、次の年の信頼に響きます。正直に伝えて、何が足りなかったかを相談するほうが、関係は続きます。内定辞退が出たときの対応は、内定辞退が出たあと、企業ができることで扱っています。
まとめると、決めるのは指導役・振り返りの時期・困ったときのもう1人の3つ。入社前は月1回の連絡、入社直後は空白の時間を作らない、3か月後に必ず面談、半年後に担当を持たせる。兆しが出たら指導役ではない人から声をかけること。採用前の準備は新卒を初めて採る会社が、先に決めておくことをあわせてご覧ください。