1.「母集団を集める」が、1名採用では裏目に出る
採用の進め方として、よくこう説明されます。応募を100人集め、書類で30人に絞り、面接で10人に絞り、3人に内定を出して1人が入社する。だから母集団を増やしましょう、と。
1名だけ採る会社が、この通りにやろうとすると、次のことが起きます。
- 対応に手が回らない 応募が20人来た時点で、本業の片手間では処理できなくなります
- 返信が遅れる 遅れたぶん、学生は他社に決めていきます
- 一人ひとりを雑に扱うことになる 選考が流れ作業になり、学生にも伝わります
- 結局、誰にも選ばれない 熱心に対応してくれた会社に、学生は行きます
数の論理は、数が大きいときにだけ成り立ちます。3人に内定を出して1人が入るという計算は、何十人も採る会社だから意味を持ちます。1名採用の会社が3人に内定を出せば、2人には取り消しの連絡をすることになります。学校との関係を考えれば、現実的ではありません。
この記事でご説明するのは、母数が小さいときの考え方です。会社の状況によって事情は異なります。自社の形に置き換えてお読みください。
2.1名採用と複数名採用は、どこが違うのか
同じ「新卒採用」でも、やることがかなり変わります。
| 複数名を採る | 1名だけ採る | |
|---|---|---|
| 目指すこと | 一定の人数を、効率よく確保する | 合う1人に、確実に届ける |
| 選考で見ること | 基準を満たすかどうか | この人と、この会社で一緒にやれるか |
| 学生から見た関係 | 自分は候補者の1人 | 自分に向けて話してくれている |
| 失敗したときの影響 | 他の内定者で埋まる | その年の採用が、まるごとなくなる |
注目していただきたいのは、3行目です。1名採用には、大企業にはない強みがあります。学生から見て「自分に向けて話してくれている」と感じられること。これは、何十人も相手にしている会社には出せません。
そして4行目が、1名採用でいちばん怖いところです。だから6章で、断られたときの話を扱います。
3.数を集めるのをやめて、届け方を変える
やることは単純です。広く薄く出すのをやめて、合いそうなところに深く入る。
具体的には、次のように考えます。
| 数を集めるやり方 | 1名採用のやり方 | |
|---|---|---|
| 募集の出し方 | 多くの媒体に広く掲載する | 学科を絞り、数校に求人票を出す |
| 学校との関わり | 求人票を送って終わり | 学内説明会に出る。就職担当の先生と話す |
| 求人票の書き方 | 幅広く当てはまる書き方 | 合う人だけが反応する書き方 |
| 応募の数 | 多いほどよい | 2〜3人で十分。全員にきちんと向き合う |
3行目について補足します。1名採用では、応募を減らす書き方のほうが結果的にうまくいきます。当てはまる人を増やそうとして条件をぼかすと、合わない人からの応募が増え、対応に時間を取られます。
現場に出る日と、事務所で図面を見る日が半々です。外に出るのが苦にならない方に向いています。
社員7名の会社です。分業は進んでいないので、幅広くやることになります。
こう書くと、合わない人は応募してきません。それでよいのです。学科の絞り方や求人票の書き方は、専門学校に出す求人票は、何を書けば読まれるかでご説明しています。
4.選考は短くする。待たせた時点で負けている
1名採用の会社が学生を逃す理由として、いちばん多いのが選考に時間がかかることです。
学生は複数の会社を同時に受けています。こちらが社内調整をしている2週間のあいだに、他社から内定が出れば、そちらに決まります。実力の差ではなく、速さの差で負けています。
そこで、次のように決めておきます。
- 面接は2回まで 1名採用で3回も4回もやる必要はありません
- 1回目から経営者が出る 最終面接まで取っておく意味がありません
- 結果は数日以内に伝える 「1週間以内に」ではなく、具体的な日を言います
- 日程調整の窓口を1人にする 社内で回していると、それだけで数日かかります
とくに2番目は、小さい会社の強みがそのまま出るところです。初回から決裁できる人が出てくる会社は、学生から見て信頼できます。大企業にはできません。
学生が動く時期そのものについては、専門学校生の就職活動は、いつ動くのかをご覧ください。時期を外すと、速さ以前の問題になります。
5.会ったその日に、枠が1名であることを伝える
採用枠が1名であることを、隠す必要はありません。むしろ伝えたほうが有利に働きます。
今年は1名の募集です。大勢のなかから選ぶというより、一緒にやっていけるかをお互いに確かめる場だと思っています。気になることは何でも聞いてください。
学生にとって、これは「自分が真剣に見られている」という合図になります。同時に、こちらも見られている立場だと認めていることが伝わります。
あわせて、1名採用の会社が答えておくべき質問があります。学生は口に出しませんが、必ず気にしています。
| 学生が気にしていること | 先に答えておく |
|---|---|
| 同期がいないのは、さびしくないか | 同期はいません。そのぶん、先輩が1対1で見ます。月に1回、私とも話す時間を取ります |
| 辞めたら、代わりがいないのではないか | 合わないと感じたら、早めに言ってください。配置を変えられることもあります |
| 教えてくれる人は、本当にいるのか | 指導役は◯◯です。今日この後、少し話してみますか |
いちばん下の行が効きます。実際に指導役と引き合わせてしまうのが、1名採用でいちばん強い打ち手です。人数が少ないからこそ、その場でできます。
受け入れ体制そのものの決め方は、新卒を初めて採る会社が、先に決めておくことで扱っています。
6.断られたときに、何をするか
1名採用では、断られると採用がゼロになります。ここをあらかじめ考えておきます。
まず、慌てて条件を上げないことです。辞退の連絡を受けてから給与を上げる提案をしても、たいてい覆りません。むしろ、最初から出せたのではないかと受け取られます。
やることは、次の3つです。
- 理由を聞く 責める調子にならないよう気をつけて、短く。次の年に効きます
- 学校に状況を伝える 決まったことを就職担当の先生に伝えておくと、関係が続きます
- その年の次の一手を決める まだ時期が早ければ別の学生を探す。遅ければ、来年に切り替える
3番目について、正直に申し上げると、年度の後半に入ってから1名を探すのは、かなり難しくなります。学生の多くは既に進路を決めているからです。そこで無理に条件を下げて採るより、翌年に向けて学校との関係をつくるほうが、結果的に早いことがあります。
辞退が出たあとの対応は、内定辞退が出たあと、企業ができることでも扱っています。
7.1名でも、学校との関係は年単位で考える
最後に、いちばんお伝えしたいことです。
1名採用の会社ほど、その年だけで考えがちです。採れたら終わり、採れなければ失敗。しかし、専門学校とのつながりは、年をまたいで効いてきます。
- 一度でも学内説明会に出た会社は、先生の記憶に残ります
- 翌年、条件の近い学生がいたときに声がかかることがあります
- 自社に入った卒業生が、後輩に話してくれることがあります
ただし、これは学校や先生によって異なります。確実に起きることとしてお約束はできません。それでも、1年で成果を判断して撤退するより、2〜3年の視野で続けるほうが、1名採用には合っています。
学校との接点の持ち方は、専門学校の学内説明会に参加するには。学校への連絡と準備でご説明しています。
まとめると、1名採用では母集団を増やさないこと。学科を絞って深く入り、選考を短くし、枠が1名であることを正直に伝えること。断られたら条件を上げずに、翌年の関係づくりに切り替えること。応募そのものが集まらない場合は、新卒の応募が集まらないときに見直す、母集団と採用経路もあわせてご覧ください。